ユニケミー技報記事抜粋 No.32 p4
1.はじめに
辞典1)によると
・ 「固い」は「ゆるい」の対語といった趣で広く一般に使う
・ 「堅い」は「脆い」の対語といった趣で人や物の性質に使う
・ 「硬い」は「軟らかい」の対語として物の状態や人の態度に使うことが多い
とあるが、私たちは日常"かたい"という言葉に深い意味を持たせず、感覚的に使うことが多いと思われる。
(例)固めにゆでる
堅い人間
硬いチョコレート など
しかし金属の世界では"かたさ(硬さ)"の中にいろいろな意味が含まれており、金属の機械的性質を調べる材料試験の一つとして、重要な位置を占めている。
2.硬さの定義2)
ある物の硬さとは、その物体に他の物体をもって押しつけたり、衝撃させたり、引っ掻かせたりなどしたとき、その物体がくぼみを生ずることに対する抵抗と考えられる。
硬さ試験においては、何らかの方法によって硬さを測りたい物(被測定物…金属等)に圧子をもってくぼみを生じさせるのであるが、そのくぼみを生じさせる方法として、
・静荷重による場合
・衝撃荷重による場合
・押し込んだ圧子で引っ掻く場合
などがある。
ここで、圧子はもちろん被測定物に比べ著しくかたさが大で、硬さ試験に際してもほとんど変形しないものでなければならないし、また、その形は正確に作りやすい様、幾何学的に簡単なものであることが求められる。実際には、ダイヤモンドの円錐、四角錐、球、あるいは鋼球などが用いられている。
3.試験装置
JISに規定されている硬さ試験には、ブリネル硬さ、ロックウェル硬さ、ビッカース硬さ、ショア硬さ、ヌープ硬さがある。
このうち、ブリネル、ロックウェル、ビッカース、ヌープ硬さなどの試験装置は静荷重式で、圧子を被測定物に静かに押し込んで、その時の荷重とくぼみとの関係から、硬さを求めている。
これに対し、ショア試験装置は圧子の付いた小さな鎚が被測定物落下し、その跳ね上がり高さから硬さを求めている。
以下に、よく使用される代表的な硬さ試験についてもう少し詳しく述べてみる。
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| 図1 ブリネル硬さ測定装置例 | 図2 ビッカース硬さ測定装置例 | |||
| −ブリネル硬さ試験3)− 図1に試験装置の形状を示す。 約200年前から使用されている最も信頼性が高い試験方法で、測定物の表面に鋼球の圧子(φ10mm)を決められた荷重で押しつけて圧痕をつくり、この荷重を圧痕の表面積で割った数値をブリネル硬さ値(記号HB)としている。 鋳物や非鉄金属等にも広く利用されているが、短所として ・ 圧子と試験荷重が大きいため圧痕が大きく、測定時間が長い ・ 試験荷重は測定物の材質や硬さに適合したものを選ばないと、生じた圧痕の周囲がはっきりせず、測定誤差が生じやすい ・ 鋼球以上に硬い測定物に押しつけると、鋼球自体に変形(へこみ)ができ誤差を生じる があげられる。 |
−ビッカ−ス硬さ試験2)4) 図2に試験装置の形状を示す。 多くの硬さ試験の標準と見なされている試験方法で、対角面136°の正四角錐のダイヤモンド圧子を一定荷重で試験面に押し込み、生じた永久くぼみの大きさから試料の硬さを求める(記号HV)。 圧子にダイヤモンドを使用しているので、どんな硬い試料でも試験でき、また、圧子の大きさがくぼみの形に無関係なので、荷重の大きさをどのようにとっても(通常は5kg以上)くぼみの形は常に相似形で、得られる硬さ値は一定となる。 ビッカ−ス硬さ試験装置と測定原理が同じであるが、荷重を非常に小さく(10gf〜1000gf)取ることにより細かい局所の硬さを測ることを専門にした試験装置に、マイクロビッカース試験装置がある。 薄板、細線、表面硬化層、メッキ層、宝石類、金属組織中の特定層の硬さ(例えば炭素鋼のフェライトとパーライトの部分の硬さ)を別々に測る場合などに、使用されている。 |
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エコ−チップ試験5)−
JISに規定されていないが、建築構造物、発電プラント配管などの溶接連結部分の硬さ管理などにおいて、比較的よく使われている試験方法である。
図3に試験装置の形状を示す。
従来の硬度計とは全く異なった原理(EQUO原理)*を応用した試験機であり
・供試材の表面はほとんど損傷を受けない
・水平面のみならず曲面を有する供試体も アタッチメントなしに直接試験できる
・測定方向に制約が無い
・コンパクト設計で、電源が乾電池のため、電源準備の必要がない
等の特徴を持っている。
また測定した硬さ値(L)は、換算表によって従来使用されている標準的硬さ値(ブリネル、ビッカース値等)に換算することができる。
図3 エコーチップ試験装置例
*(EQUO原理)
タングステンカーバイドで作られたテストチップを有するインパクトボデーが特殊なバネの力で供試体の表面を打撃し、同時に反発する。その際、インパクトボデーに内蔵された磁石とコイルが働き、電圧が生じる。速度と正比例の関係にあるこの電圧 は電子機構に伝達され、自動的に硬さ値(記号L)として、デジタル表示される。供試体が硬ければそれだけ反発速度が増し、硬さ値(L)も比例して大きくなる。
また、硬さ値(L)は供試体の弾性係数にも影響される。即ち、同じ硬さで弾性数の違う供試体の場合、弾性係数の小さい供試体の方が大きな硬さ値(L)を示す。
ところで、これら各種硬さ試験機は、その硬さ測定原理、方法等が全て異なるため、測定された試験値間には何の関連性もなく、お互いの値の比較は実験的に行う必要性がある。図4は各硬さ間の関係を棒グラフとして図示したものである。
なお、これらの硬さ間の関係は材料によって異なり、図はだいたいの見当を示したものである
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4.金属の機械的性質との関係6)
機械を作る場合、ある程度の耐久性を考えて、機械の構成部分の作用に耐える材料を選択して設計する必要性がある。
ある部分は硬くて強い材料、ある部分はあまり硬くなくても粘りのある材料を、というように、使用される材料の性質をよく知った上で決定する必要がある。
しかし、材料の性質は硬さを調整することによっていろいろと変わってしまうため、現場では硬さの数値をもとに金属の特性を知る手がかりとしている。
そこで"硬さ"と"特性"との関連づけが必要になる。
以下、いくつかの例について述べていく。
(1)引張強さと硬さ
一般に、鋼では焼もどし温度が異なり、鋼が違っていても同一硬さを持つものは、ほぼ同程度の引張強さを示すことが知られている。
図5は硬さと引張強さとの関係を示したもので、引張強さはブリネル硬さに比例することがわかり、その関係式は
引張強さ σB(kg・f/mm2)≒1/3×HB(ブリネル)
で表される。
ところで、焼入れ硬さHRC55(完全焼入れ)のものとHRC35(不完全焼入れ)のものとを同一条件で焼きもどしした場合を比較してみると、表1のようになる。
引張強さは焼もどし硬さが同じであるから同一になるが、降伏点、衝撃値、その他が大きく異なり、完全焼入品が優秀であることが判る。
従って良好な機械的性質を得るには、よく焼きをいれること、即ち、焼入れ硬さのチェックが大切である
| 焼入硬さ (HRC) |
焼もどし硬さ (HRC) |
引張強さ (Kg・f/mm2) |
降服点 (Kg・f/mm2) |
衝撃値 (Kg・f/mm2) |
伸び (%) |
絞り (%) |
| 55(完全焼き入れ) | 30 | 100 | 90 | 13 | 23 | 62 |
| 55(不完全焼入れ) | 30 | 100 | 85 | 5 | 19 | 53 |
参考文献・参考資料
(1) 広辞苑(第5版 岩波書店)
(2) 河本 実:材料試験(朝倉書店)
(3) 香住浩伸:メンテナンス Autumn92〜97(1999)
(4) 試験設備ガイド:平成4年 中部電力鞄d力技術研究所 機械担当
(5) パンフレット「EQUO TIP」
(6) 大和久重雄:設計・材料・熱処理(日刊工業新聞社)
(次号につづく)
以 上